欷歔すすりなき)” の例文
ベッキイはしゃくり上げて来る欷歔すすりなきを、ごくりとのみこみながら戸を押しあけました。と、思わず彼女は声を立てました。
鶴木検事の顔を正視してビクビクと咽喉のどを引釣らせていたが、そのままドッカリと椅子に腰をおろすと、応接机の上に突伏してギクギクと欷歔すすりなきし始めた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
遂にかすかな欷歔すすりなきの声を立て両手をひしと組み合せ、蓮月の後姿を拝む。欷歔の声漸次大きくなる。蓮月のすくう香湯の匂いあたりに薫じ、夜は明け放れる。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
サク、サク、サクと鑿の音は、欷歔すすりなきの声を縫うようにして、その間も絶えず慎ましく小さい音を立てていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
住吉新慶町しんけいまち辺に来ると、かねて六番、八番の両隊が舎営していたことがあるので、路傍に待ち受けてわかれを惜むものがある。堺の町に入れば、道の両側に人山ひとやまを築いて、その中から往々欷歔すすりなきの声が聞える。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とう々たる血の流れの歌。酔倒の欷歔すすりなき
静かなる欷歔すすりなき泣きもいでつつ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
欷歔すすりなきの声がした。陶器師が泣いているのだ。……月子は静かに手を延ばしたがのみつちとを取り上げると、サク、サク、サクとりかけの仮面めんを、巧妙たくみ手練てなみで刻り出した。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
セエラの欷歔すすりなきはだんだんおさまって来ました。こんなにへこたれるのは、いつもの自分らしくない、とセエラは意外に思いました。彼女は顔をあげて、エミリイの方を見ました。
欷歔すすりなきの声は高くなったが不意にプッツリ断ち切れた。と、陶器師は顔を上げ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういいながら、女史は腹立たしげに、部屋の隅にあるテエブルのかたわらを掠め過ぎようとしました。と、テエブル掛のかげから、急に欷歔すすりなきの声が響き出て来るのに吃驚びっくりして、思わず一あしをひきました。