楣間びかん)” の例文
文科の某教授がとった、池を中心とした写真が、何枚か今のバラック御殿の楣間びかんにかかっている。今ではもう歴史的のものになってしまった。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
奥では燻製の鰊や、蟹の鑵詰の鑵や、シトロン、麦酒の瓶などが、売品として、二、三の卓上に飾り立ててもあった。楣間びかんの即製のビラを見上ると
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
十畳のその居間は和洋折衷とも言いつべく、畳の上に緑色の絨氈じゅうたんを敷き、テーブルに椅子いす二三脚、床には唐画とうがの山水をかけたれど、楣間びかんには亡父通武みちたけの肖像をかかげ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かしらめぐらせば、楣間びかん黄海こうかい大海戦の一間程なる水彩画を掲げて座敷のすみには二鉢ふたばちの菊を据ゑたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
脇士わきじだの、楣間びかん飛颺ひようする天人の群像だのを、飽かずに眺め入りながらうと/\と日を送った。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これは子規の庵をうたことのあるものは、誰も一度は必ず目に入れたに相違ない。木立に雪の降っておる小さい水絵が楣間びかんにかかって久しい前から位置もかえずに掛っていた。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その王妃は冊立さくりつ後間もなく身ごもり給いて、明け暮れ一室に起臥しつつ紡績と静養とを事とせられしが、そのへや楣間びかんには、先王の身代りとなりて忠死せし黒奴こくどの肖像画がただ一個掲げあり。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして楣間びかんに掲げてあるのは『無礼講』と大書した額であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのマグダレナのマリアをもらって、神代杉じんだいすぎの安額縁に収めて、下宿の楣間びかんに掲げてあったら、美人の写真なんかかけてけしからん、と言った友人もあった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
楣間びかんや床の置物などを見まわしてもやっぱり東京だ。で、寂しいが旅情というほどのものは起らない。もっと違った意味で寂しがりたい私の心もちはすっかり裏切られた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
これは両親と自分との居間の楣間びかんに掲げられたままで長い年月を経た。中学の同級生のうちで自分がこういう少女像の額なんか掛けているのをおかしいと言って非難するものもあった。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)