朱欒ザボン)” の例文
三歳の時、私は劇しい窒扶斯チブスに罹つた。さうして朱欒ザボンの花の白くちるかげから通つてゆく葬列を見て初めて私は乳母の死を知つた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのなかに白緑の葉をかがやかせてゐるのは朱欒ザボンの樹で、その葉の茂みから大きなザボンの実が二つ三つ下膨れの尻を見せてゐる。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
忽ち啜泣すゝりなきの聲の背後うしろに起るあり。背後はキケロの温泉いでゆの入口にて、月桂ラウレオ朱欒ザボンの枝繁りあひたれば、われは始より人あるべしとは思ひ掛けざりしなり。
私が生れた鹿児島のヒラの馬場の屋敷というのは、明治十年鹿児島にわたって十七年間も住っていた父母が、自ら設計して建てた家なので、九年母くねんぼ朱欒ザボン、枇杷
朱欒の花のさく頃 (新字新仮名) / 杉田久女(著)
太陽は黄熟した大きな朱欒ザボンのやうにかがやき出した。乾いた砂地に落ちた梅の樹の横顔が、墨絵で描いたやうにくつきりと浮いて見える。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
いろいろな不思議を信じた行爲の閑暇ひまにはまた七面鳥を朱欒ザボンのかげに放ち、二三百の白い鉢に牡丹を開かせ、鷄を飼ひ、薔薇を植ゑる事を忘れなかつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
庭には無論朱欒ザボンの老木が十月となれば何時も黄色い大きな実をつけた。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
十一月は冬の初めてきたるとき故国くに朱欒ザボンの黄にみのるとき
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
照る砂に雷管のごと花落す朱欒ザボン一木ひときが老いてお庭に
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)