木沓きぐつ)” の例文
次いでブリツジを踏む二人の木沓きぐつの音がした。「トビアスのをぢさん。ちよいと明りを見せて下さい。プツゼルをばさんが来ました。」
そして、すらりとした華奢きゃしゃな体を、揺り椅子いすに横たえて、足へはかかとの高い木沓きぐつをうがち、首から下を、深々とした黒てん外套がいとうが覆うていた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
誰かが笏を落したと云つては笑ひ、木沓きぐつが割れたと云つては笑ひ、さうなるととめどもないげらげら笑ひが浪のやうにしばらくは一隊を支配した。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
三人が扉まで行って窺うと、胸から血を流し木沓きぐつをひきずりながら、ラスプーチンが、階段を降りてくるところであった。彼はまだ死ななかったのである。
世界の裏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
片手には俗に木沓きぐつのヴァイオリンといわれる、三四本の使い古しのヴァイオリンの絃をはった古びた木沓きぐつを持ち、他の片手には、その樂器に似合いの弓をさげていた。
大理石のような硬い氷の上に立って、ひょいと見ると、皺枯れ声の主というのは、中国服を着て、木沓きぐつをはいた老人だが、中国人ではないらしい。彼は、僕の顔をじろじろ見ていたが
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
枯草を詰めた木沓きぐつのダンスを懐かしく思ふのだ。〔〕
〔蒼冷と純黒〕 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しうとめは折々気を附ける。「お前らくにしてお出かい。足が冷えはしないかい。」穿いてゐるのは、藁を内側に附けた木沓きぐつである。
そう言って、高い木沓きぐつを脱ぐと、なかから、それは異様なものが現われた。双方の足趾あしは、いずれも外側にかたよっていて、大きな拇趾おやゆびだけがさながら、大へらのように見えるのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
老博士は、木沓きぐつの先でコツコツ氷を叩いてみて、僕をかえりみて云った。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
人々の木沓きぐつをひきずる音や、箒で掃除する音を耳にした。
おい、フリッツ、お前の木沓きぐつをはきな。