朧々ろうろう)” の例文
五日の月松にかかりて、朧々ろうろうとしたる逗子の夕べ、われを送りてかどに立ちで、「早く帰ってちょうだい」と呼びし人はいずこぞ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
朧夜の野道の化物も、草履取が一足先に廻って、そんな悪戯いたずらをするのではないかと思うが、もとより想像に過ぎぬ。万事春の夜の朧々ろうろうたる中にまかして置いて差支ない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
読者の眼頭に彷彿ほうふつとして展開するものは、豪壮悲惨なる北欧思想、明暢めいちよう清朗なる希臘ギリシヤ田野の夢、または銀光の朧々ろうろうたること、その聖十字架を思はしむる基督キリスト教法の冥想
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
まことにこの人たちの見ている朧々ろうろうたる月ほど、意欲が影をひそめた詠歎的な自然はない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
……弥生やよひも末の七日なぬか明ほのゝ空朧々ろうろうとして月は在明ありあけにて光を
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
朧々ろうろうたる低き戸のかまち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)