朝凪あさな)” の例文
朝凪あさなぎながら海近い空気の冷たさであったのか。こめかみがうずくような清冽せいれつなものに打たれ、立ちどまって深い呼吸をはきだした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
丁度引汐ひきしお時で、朝凪あさなぎの小波さざなみが、穴の入口に寄せては返す度毎に、中から海草やごもくなどが、少しずつ流れ出していたが、それに混って
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
美事な日本晴れの朝凪あさなぎで、さしもの玄海灘が内海うちうみ外海そとうみかわからない。絶影島まきのしまを中心に左右へ引きはえる山影、岩角がんかくは宛然たる名画の屏風びょうぶだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
珍しく朝凪あさなぎして、そのままおだやかに一日暮れて……空はどんよりと曇ったが、底に雨気あまげを持ったのさえ、頃日このごろの埃には、ものやわらかにながめられる……じとじととした雲一面、星はなけれど宵月の
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)