曳出ひきだし)” の例文
それから鏡台の一番下の曳出ひきだしに詰まっているスキ毛を掴み出して元結もとゆいで頭にククリ付けた。その上から手拭を冠って今一度鏡を覗いてみた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つまり、彼女の懸けて居る色眼鏡とそっくりの、而も金縁のそれを、私の学生時代新派役者や軟派のヨタモンにかぶれて常用して居た事があり、最近ではとんと顧ず壊れ箪笥の曳出ひきだしにでもしまい込んで
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
彼はこれ等の品物の、日本一の蒐集を持っているので、小シーボルトの『日本の古物』に出ている材料は、すべて松浦竹四郎の蒐集から絵をかいたものである。彼はまだ曳出ひきだしに沢山の玉を持っている。
警察医が来て愛子を介抱している間に、俺達は紫塚造船所に乗込んで、机の曳出ひきだしを片付けている最中の大深を、有無を云わさず引っ捕えた。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
曳出ひきだしの表面に残っている指紋に呼吸いきを吐きかけ吐きかけ念入りに鼻紙で拭き取っているうちに、窓硝子ガラスをコツコツとたたく音を聞付け、ハッとして振返る。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同じ曳出ひきだしの中に在った鋭いらしい匕首あいくちも中身をあらためてから懐中ふところへ呑んだ。やはり押入の向側から鉋飴売りの足高盥あしだかだらいを取出しかけたが又、押入の中へ投込んだ。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ机の曳出ひきだしから分厚い強度の近眼鏡と、カルモチンと同じ位のカスカラ錠の瓶を探し出しただけであった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この事務机デスクの右の一番上の曳出ひきだしに一梃のピストルが這入っていた。それも旧式ニッケル鍍金めっきの五連発で、多分、明治時代の最新式を久しい以前に買込んだものらしい。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
のみならず、そうした被害者の犯人に対する気持は机の曳出ひきだしに在ったピストルを取出さずに、犯人を迎え入れた事実によって、二重三重に裏書きされていやしませんか。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
万平は鏡台の前に座って勇ましく双肌脱もろはだぬぎになった。鏡台の曳出ひきだしを皆開け放して、固練かたねり白粉おしろいで胸から上を真白に塗りこくり、首筋の処を特に真白く、青光りする程塗上げた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)