曙色あけぼのいろ)” の例文
曙色あけぼのいろに松竹梅を總縫した小袖、町風に髮を結ひ上げた風情は、長局ながつぼね風俗に飽々あき/\した家光の眼には、どんなに美しいものにうつつたでせう。
顔は奈何どうでも構はぬが、十八歳で姿の好い女、曙色あけぼのいろか浅緑の簡単な洋服を着て、面紗ヴエールをかけて、音のしない様に綿を厚く入れた足袋を穿いて、始終無言でなければならぬ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは年増としまの奥様風の美人であったろうというようにも見たり、また妙齢の処女だろうと見立てるものもあったり、その衣裳もまた、曙色あけぼのいろの、朧染おぼろぞめの、黒い帯の、繻子しゅすの、しゅちんのと
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
曙色あけぼのいろ薔薇ばらの花、「時」の色「」の色を浮べて、獅身女面獸スフインクス微笑ほゝゑみを思はせる暗色あんしよく薔薇ばらの花、虚無きよむに向つて開いた笑顏ゑがほ、その嘘つきの所が今に好きになりさうだ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
三名が、いかに足の限り駈けても、まだ山之木郷までは到底、行き着いていまいと思われる頃に——青い月空の一方に、炎というよりは、夜明けの美しさに似た曙色あけぼのいろの光がうっすらめていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)