明瞭はっき)” の例文
やがて明瞭はっきり彼は、相手らの風采ふうさいを見て取った。そしてにたりと笑った。表面は極めてあいそよくうなずいて来訪者を追っぱらった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
もっと明瞭はっきり云えば、シュテッヘをかくまった、URウー・エル—4号に、乗り込んだのを最後に、艇長の地上の生活は失われたことになりましょう。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
お城に止どまった武士もののふ達がお殿様方と夏彦様方と明瞭はっきり二派に立ち別れ、切り合い攻め合い致しましたため次第次第に人は減り、やがて死に絶えてしまいました。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俎板まないたの上で首を切られても、胴体どうたいだけはぴくぴく動いている河沙魚かわはぜのような、明瞭はっきりとした、動物的な感覚だけが、千穂子の脊筋せすじをみみずのように動いているのだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
△「へえ、何うも明瞭はっきり分りませんので」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
表面無視しながら、阿賀妻は明瞭はっきり、その底意を読みとることが出来た。その男の言葉りにあらわれた九州なまりも気になるものであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
君たちは何を隠そうとしているのか——と妙に落着いたような、冷たい明瞭はっきりした声で云うのが、聴えたのでございます。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『ジプシイ女の咒詛というものが、どれほど恐ろしいか明瞭はっきりと、私はあの人に思い知らせてやる!』
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
△「何だか其処そこの処は明瞭はっきり分りません」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを明瞭はっきりそう感ずるのは阿賀妻だけかも知れない。いや、みんな——これとつかめないにもかかわらず、何かさばさばしないものを感じていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
氷雪におおわれた絶壁の面に明瞭はっきりそれとは解らないけれど、どうやらのみででも掘ったらしい一筋の道が付いている。絶壁を斜めに上の方へ向け階段型に付いている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今はならぬ!」と明瞭はっきりと先生から殉死を止められた主水は、心ならず、新主に仕えた。
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とにかく部落へ行って見たら万事明瞭はっきりするだろうと歩きにくい道を急ぐのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
部落に近附くに従って、何が広場で行われているかそれを明瞭はっきり知ることが出来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして「愛の宗教」を説いた慈愛の言葉も三人の耳に、尚明瞭はっきりと残っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無論、最初は何んのことだか、私には明瞭はっきり解かりませんでしたけれど、其日の午後になった時、その意味が解かったのでございます。私は彼女から温室の中で接吻されたのでございます。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この私の驚いたことはそれらの雑音に打ち混って立派な支那語の話し声が明瞭はっきり聞こえて来ることであった。尚一層私を驚かせたのは北京ペキンで聞いた例のうたがあざやかに聞こえて来ることであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ああは云っても謀反でないと兄さんの口から固い証拠をもし見せられたら嬉しかろうと頼んでいたのも今は仇! 自分の口から自慢かのように謀反するのが何悪いと明瞭はっきり明かしてくだされたからは
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)