招魂社しょうこんしゃ)” の例文
質屋の店を出て、二人は嘆息しながら表通を招魂社しょうこんしゃの鳥居の方へと歩いて行った。万源という料理屋の二階から酔客の放歌が聞える。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「わたしねえ、本当はね、招魂社しょうこんしゃへ御嫁に行きたいんだけれども、水道橋を渡るのがいやだから、どうしようかと思ってるの」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは美しい秋晴の日であったが、ちょうど招魂社しょうこんしゃの祭礼か何かの当日で、牛込見附のあたりも人出が多く、何となしにうららかに賑わっていた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ええ、神宮から招魂社しょうこんしゃ遊就館ゆうしゅうかんを拝見させて戴きました。それから帰りに陸軍省と参謀本部へも寄りました」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今晩お蝶さんと二人で招魂社しょうこんしゃの馬場へ涼みに行くから、あなたもあとから来てくれというので、私もついふらふらとその気になって招魂社まで出かけて行きました。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その頃の九段坂上は現今いまよりグッと野暮な山の手だった——富士見町の花柳界が盛りになったのは、回向院えこういん大角力おおずもうが幾場所か招魂社しょうこんしゃの境内へかかってから、メキメキと格が上ったのだ。
行手ゆくての道の両側には見物みせもの店や、食物店が、それはそれはちょうど九段の招魂社しょうこんしゃの祭りに行ったように奇麗に居並んでいて、其処そこ往来ゆききするお姫様や、小供こどもの姿が手に取るように見えます。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三坪ほどの小庭へ招魂社しょうこんしゃ石灯籠いしどうろうを移した時のごとく、ひとりで幅を利かしているが、何となく落ちつかない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
招魂社しょうこんしゃの馬場の彼方かなたに琉球屋敷あり。筒袖つつそでの着物に帯を前で結び、男も長きかんざしに髪を結ひたる琉球人の日傘手にして逍遥せしさま日もおのづから長き心地せり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
黙阿弥もくあみの「嶋鵆月白浪しまちどりつきのしらなみ」は明治十四年の作であるが、その招魂社しょうこんしゃ鳥居前の場で、堀の内まいりの男が夜そばを食いながら、以前とちがって夜鷹そばは売り手が少なくなって
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)