抹茶まっちゃ)” の例文
茶漬ちゃづけには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。しかし、抹茶まっちゃ煎茶せんちゃにしても、最上のものを用いることが秘訣ひけつだ。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
弁信法師も、お茶の手前の一手や二手は心得ているに相違なく、手振てぶりも鮮かに一椀の抹茶まっちゃを押戴いて、口中にあおりました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「桶茶」とはしばしば桶で茶を泡立て、これを茶碗に移して飲むからによります。沖縄でも同じことを致します。抹茶まっちゃと何か関係がないでしょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
お茶といっても、茶碗の底をかき回して、蛙の眼玉を製造するあの面倒な抹茶まっちゃではない。極く上等の玉露ぎょくろかなんかを、ひとり、音もなく、たのしむのである。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「なるほどね、二流三流どこは、こんなことをして田舎で金を捲きあげているんだね」道太はその師匠が配った抹茶まっちゃ茶碗を箱から取りだして撫でまわしていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからまた少し間をおいて、前の茶碗よりずっと小ぶりな白天目しろてんもくに緑いろの抹茶まっちゃをたたえ、足の運びもゆるく、貴人にたいする作法どおり、物静かに秀吉のまえに置いた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのまえの日に、越前屋の安二郎が壺入つぼいり抹茶まっちゃと菓子を持って訪ねて来た。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奥に婚礼用の松が真青まっさおに景気を添える。葉茶屋はぢゃやでは丁稚でっち抹茶まっちゃをゆっくりゆっくりうすいている。番頭は往来をにらめながら茶を飲んでいる。——「えっ、あぶねえ」と高柳君は突き飛ばされた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お茶は抹茶まっちゃを朝二わん、ひる五、六たび、晩にも一碗。多年の習慣である。そのほか番茶、せん茶、応接間では客とコーヒー、紅茶も少しすする。茶淫煙癖、どうもこれは直らない。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)