投錨とうびょう)” の例文
十二月三十一日、午前九時——全く、うまく行ったものだ——万寿丸は横浜港内深くはいって、ほとんど神奈川かながわ沖近くへ投錨とうびょうした。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
横浜に碇泊ていはくしていた外国軍艦十六そうが、摂津の天保山沖てんぽうざんおきへ来て投錨とうびょうした中に、イギリス、アメリカと共に、フランスのもあったのである。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのうちに、両船は相前後して、投錨とうびょうした。お互いに、すねにきずをもっていることとて、仏官憲の臨検りんけんを、極度に気にした。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その夜は湾内に快速巡洋艦アメリカ号が投錨とうびょうした夜なので、女達の首にはたくましいヤンキーの水兵の腕がからんでいた。
スポールティフな娼婦 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
その逆潮流が私どもをフリーメンの風下かざしもの方へ押し流し、そこで運よく投錨とうびょうすることができたのでした。
戦死者中福井丸の広瀬中佐および杉野すぎの兵曹長へいそうちょうの最後はすこぶる壮烈にして、同船の投錨とうびょうせんとするや、杉野兵曹長は爆発薬を点火するため船艙せんそうにおりし時、敵の魚形水雷命中したるをもって
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
最近投錨とうびょうしたカトゥーバ号のビックフォード艦長を訪う。彼は、マターファ鎮圧の命を受け、明朝払暁、マノノへ向けて出航すると。マターファの為、艦長のあたう限りの好意を約束して貰う。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
然れどもその志は、死灰しかいに帰するあたわず。あたかも好し、安政元年正月十八日、前言の期をたがえず、ペルリは軍艦四隻、汽船三隻をひきいて、江戸羽根田に闖入ちんにゅうし、また退しりぞいて神奈川に投錨とうびょうす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
投錨とうびょう用意」
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
万寿丸は「動いてはあぶない」とばかりに、立ちすくんだ盲人のように、そこに投錨とうびょうして一夜を明かすことになった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
あざやかな投錨とうびょうぶりだ。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
一方チーフメーツは投錨とうびょうと共に、通い船に乗って水上署へおもむいた。そして、そこで室蘭であった一部始終を話した。——彼はボーイ長のことは話すのを忘れた——それはきっと藤原の煽動せんどうだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)