手擦てず)” の例文
ところどころに書入のしてある古く手擦てずれた革表紙の本だ。読みさしの哥林多コリンタ前書の第何章かが机の上に開けてある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
琴爪の方は、大分使い込まれたらしく手擦てずれていたが、かつて母のかぼそい指がめたであろうそれらの爪を、津村はなつかしさに堪えず自分の小指にあててみた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その外坐舗一杯に敷詰めた毛団ケット衣紋竹えもんだけに釣るした袷衣あわせ、柱のくぎに懸けた手拭てぬぐい、いずれを見ても皆年数物、その証拠には手擦てずれていて古色蒼然そうぜんたり。だがおのずから秩然と取旁付とりかたづいている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
珍らしい彫物のある、年を經たのと手擦てずれで、眞黒になつた大きな柱時計を眺めた。
赤紙あかがみの表紙手擦てずれし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
長い髯の男は手にしていた古い革表紙の手擦てずれた聖書を振って言った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)