手弱女たおやめ)” の例文
「む、大納言殿御館おやかたでは、大刀だんびらを抜いた武士さむらいを、手弱女たおやめの手一つにて、黒髪一筋ひとすじ乱さずに、もみぢの廊下を毛虫の如く撮出つまみだす。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一般の善男善女の前には生仏いきぼとけと渇仰される生仏だから、仏の一種に相違あるまい、その仏を迷わせて地獄におとしたのが、今のあの手弱女たおやめだ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柔風やわかぜにもたえない花の一片ひとひらのような少女、はぎの花の上におく露のような手弱女たおやめに描きだされている女たちさえ、何処にか骨のあるところがある。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その時、突然闇の中にほのぼのと青い円光がポツリと一点あらわれたが見ているうちに大きくなり、やがて中から手弱女たおやめ忽然こつねんとして現われた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
プンと火縄の匂いがして、スーッと立ち出でた一人の手弱女たおやめ。手に持った種ヶ島を宙に振り、やがて狙いを定めたのは若衆の胸の真ん中であった。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一人の手弱女たおやめが来り合わせて、川を渡りわずらうのを見て、一人の禅僧が背中を貸して、その妙齢の女を乗せて川を渡してやって、向う岸でおろして別れた。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お京の姿は、傘もたわわに降り積り、浅黄で描いた手弱女たおやめ朧夜おぼろよ深き風情である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見れば美しい手弱女たおやめで、髪豊に頸足白く、嬋娟せんけんたる姿、﨟たける容貌、分けても大きく清らかの眼は、無限の愁いを含んでいて見る人の心を悩殺する。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あらき風に当るまい、手弱女たおやめ上﨟じょうろうの此の振舞ふるまいは讃歎に値する。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時、彼の行手から白拍子姿の手弱女たおやめと鉄棒を突いた大入道と町娘風の乙女とが、こっちへ悠々と歩いて来たが、もちろんそのような異様の者は彼の家臣の中にはない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
カチリと打ち合う音がして手弱女たおやめの持っていた種ヶ島は手から放れて地に落ちた。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全山暗く夜は深々、何んとなく仙気の漂うところ、一個の老翁と一個の手弱女たおやめ、チラチラと燃える焚火の光に、象形文字の書を照らし、魔法か妖術か奇々怪々の秘法の伝授が行われようとする。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、手弱女たおやめは嘲けるように
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)