手容てつき)” の例文
「何をぼんやり考えているんです。」とお国は銚子ちょうし銅壺どうこから引き揚げて、きまり悪そうな手容てつきで新吉の前に差し出した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お庄は振りのような手容てつきをして、ふいとそこを飛び出すと、きまり悪そうに四下あたりを見廻して、酒屋の店へ入って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀の手で、青が出来かかった時、じらしていた友人が、牡丹ぼたんを一枚すんなりしたそのてのひらに載せて、剽軽ひょうきん手容てつきでちらりとお銀の目前めさきへ突きつけて見せた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お作は無器用な手容てつきで、大きな銚子から酒をいだ。新吉は刺身をペロペロと食って、けろりとしているかと思うと、思い出したように猪口を口へ持ってゆく。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父親は山の入った博多はかたの帯から、煙草入れを抜き出して、マッチをって傍で莨を喫った。お庄はひげの生えたその顎の骨の動くさまや、せた手容てつきなどを横目に眺めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自身二階で時々無器用な手容てつきをして、ずんどのなかへ花をしているのを、お島は見かけた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隠居は少しふらつくような、細長い首を振り立てて、妙な手容てつきをした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)