意固地いこじ)” の例文
彼には何か意固地いこじなものがあった。富贍ふせんな食品にぶつかったときはひといろで満足するが、貧寒な品にぶつかったときは形式美を欲した。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
温情のないあまり打ち解けない表情でそらされ、唇はやや厚くてきっと結ばれており、その様子が意固地いこじでほとんど頑固がんことも言えるほどだった。
小さい時分にはよくつまみ出してやった大人たちは、意固地いこじに逃込むのを憎がって、この頃は手をだすのを見つけるたんびにざまあみやがれと言って笑った。
「どうも意固地いこじな……いえ、不思議なもので、その時だけは小按摩が決して坐睡をいたさないでござります。」
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうまでいわれて、意固地いこじにいやとはいいきれないところだが、それにしちゃア、あなたのしかけが悪い。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは自分の好みでもあるが、しかも俗物共への反抗も自分に混って意固地いこじに女道楽からそれを護って来たのだと言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしまたその例にもれず、音楽を好まなければならないと思っていた。そしてかなり本気に稽古けいこを受けていた。しかし時々は、教師を怒らすために、意固地いこじ真似まねをするのだった。
けれどもわたくしは意固地いこじにそれを待受けして葛岡と一緒に車室へ乗込み、真夜中過ぎの午前二時半に八木原駅へ着きました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
音楽会でふたたび彼に会った時、彼女は気をそこねた冷淡な多少意固地いこじな様子を見せようとした。しかし、彼があまり善良なお坊ちゃんだったので、その決心も保てなかった。二人はまた話しだした。
望みというものは、意固地いこじになって詰め寄りさえしなければ、現実はいつか応じて来るものだ。私が水辺に家を探し始めてから二ヶ月半かかっている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
窓外の一本太い竹煮草たけにぐさの広葉に当った夕陽から来るものらしかった。かの女はそのきろきろする斑点を意固地いこじに見据えて、ついでに肖像画の全貌ぜんぼうをも眺め取った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)