惑乱わくらん)” の例文
旧字:惑亂
ひとりい、ひとり答えて、はては当面とうめん大難だいなんにあたまも惑乱わくらんして、ぼうぜんと、そこに、うでぐみのまま立ちすくんでしまったのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひややかなまま母、思いやりのない夫、家の人びとのあまりにすげなきしぶりを気づいては、お政は心中しんちゅう惑乱わくらんしてほとんど昏倒こんとうせんばかりにかなしい。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
惑乱わくらん寂寥せきりょうとが、同時に彼の心をとらえていた。「ひとりぽっち」という言葉が異様に彼の胸に響いたのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
宇治は惑乱わくらんを感じながら、それを立てなおすように高城の顔に瞳を定めた。高城の表情に何か怪訝けげんの色がふと走ったが、そのまま水筒を彼に返してゆるゆる立ち上った。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
御行 (狼狽の極。しばらくは全く惑乱わくらん状態。……ややあって、大声で右手に叫ぶ)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
愚夫愚婦ぐふぐふの邪教に沈溺ちんでき惑乱わくらんする、言うにえざるものあり。しかして政府、あにこれを問わざるべけんや。われ聞く、国の王者あるは、なお家の父母あるがごとし。四海しかいの内、みな兄弟なり。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
間もなく継母を迎えなければならなくなったときの惑乱わくらん、しかもその継母が、彼を愛するためにのみ迎えられると知った時の狼狽ろうばいは、あわれにもまたほほえましいものであった。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
お政は泣く子をかげでしかりつけ、におうて膳立ぜんだてをするのである。おちついてやるならばなんでもないことながら、心中惑乱わくらんしているお政の手には、ことがすこしも運ばない。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)