恰幅かつぷく)” の例文
「でせう。血だらけの羽織と匕首、それに重い渾天儀こんてんぎの臺を持上げて、そんなものを隱すのは、恰幅かつぷくの良い狩屋三郎でも無きや——」
が、如何なる豪傑にもせよ、子爵後藤新平なるものは恰幅かつぷくの好い、鼻眼鏡をかけた、時々哄然と笑ひ声を発する、——兎に角或制限の中にちやんとをさまつてゐる人物である。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
胃弱者に見るやうな蒼黒い顏つきの、細つこい亭主にひきかへて、がつしりと恰幅かつぷくのいゝ、顏色も艶々つや/\して、造作もはつきりしてゐるし、男性的の聲はあけつ放しの性質そのまゝであつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ある日の暮れ方、滄洲がいつものやうに、縁端えんばたで髯をしごいていい気持になつてゐると、そこへ恰幅かつぷくのいいお爺さんが訪ねて来た。つひぞ見知らぬ顔だが、その髯を見ると、流石の滄洲も吃驚びつくりした。
三十二三の痩ぎす乍ら見事な恰幅かつぷく。少し月代さかやきが伸びて、青白い顏も凄みですが、身のこなし、眼の配り、何となく尋常ではありません。
と、揉手もみでをするのです。筋肉質の確りした中老人で、柔弱だつたといふ伜の菊次郎に比べて、これはまた、武家あがりと言つた恰幅かつぷくです。
「それに、この恰幅かつぷくだ。部屋の中にはあかりも點いて居たことだらう。鼻の先へ來て、短刀で突いて出るのを、默つて突かせる道理はあるまい」
膝行ゐざり寄つたのは、小鬢こびんに霜を置いた五十前後の武士。花嫁の父、秋山佐仲といふのでせう、恰幅かつぷくの立派な、眼鼻立ちの整つた、物言ひの確りした人物です。
年の頃五十七八、大町人らしい恰幅かつぷくで、後ろに從へた優さ男の茂七とは、對蹠的たいしよてきに堂々として居ります。
「好い男だが、恰幅かつぷくもよく、力もあり、武藝の一と手くらゐは知つてゐさうでしたよ。あの醫者を音も立てさせずに締め上げるのは、容易のことぢやありませんね」
この男は四十がらみのあぶらの乘つた恰幅かつぷくで、少しは自分でも溜めて居さうな如才のない人柄です。
年の頃は五十四五、先代の主人總兵衞の義弟で、長い間放浪生活をしたとは聽いてをりましたが、恰幅かつぷくも見事、人相も福々として、大家の主人として恥かしくはありません。
「それに、聲も恰幅かつぷくも男だけれど、身のこなしに、妙に柔かい丸味があるでせう」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
隣は浪人の居留木ゐるぎ角左衞門、四十前後の恰幅かつぷくの良い武家で、少し怖い顏をして居りますが、それがむしろ人の好い證據と言つてよく、話の調子もなめらかで、何方かと言へば、素朴そぼくなうちに
もう一人の丸吉といふのは、主人の遠縁に當る掛り人で、これは二十四五の恐ろしく丈夫さうな男、血色の良い、恰幅かつぷくの立派な、眠さうな眼鼻立ですが、なか/\の男振りでもありました。
色白の立派な恰幅かつぷくや、聰明らしい明るい眼、魅力と利かん氣をたゝへた、複雜な表情を持つた唇など、物馴れた平次でさへ、この年増女に對しては、何んとなく敵し難いものを感ずるのです。
二十五六の立派な恰幅かつぷくですが、生れ乍らの白痴はくちで、する事も、言ふ事も、皆んな定石がはづれます。そのくせ馬鹿力があるので、いろ/\の仕事を手傳つて、町内の殘り物を貰つて暮してゐる男でした。