御家おうち)” の例文
「しかし、奥様、早く先生に診て頂いて好う御座いました——御家おうちでは大事な母さまですもの。」とお鶴が言つた。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「どうぞ。——まあ試しに使って見て下さい。あなたの御家おうちの——と云っちゃ余り変ですが、あなたの私事わたくしごとにででもいいから、ちょっと使って見て下さい」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
偖又大橋文右衞門は支度したく調とゝのひしかば稻葉家の藩中へと出行しあとへ彼の油屋五兵衞の番頭久兵衞は入來り文右衞門さんは御家おうちにかと云ながらつぐと上りこむゆゑ女房お政は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此の廿五日にも参上あがつたのですよ、御近所の貧乏人の子女こども御招およびなすつて、クリスマスの御祝をなさいましてネ、——其れに余りお広くもない御家おうちに築地の女殺で八釜やかましかつた男のおやだの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「もし病院の近所へ御家おうちでも御借りなさるやうでしたら、また御世話を致します。坊ちやま方を御連れなさるが可う御座います。いくらも左様さうして来て被入いらつしやる方が御座います。」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そんな事は一々聞かないでもいいから好加減いいかげんにしてくれと云うと、どう致しまして、奥様のらっしゃらない御家おうちで、御台所を預かっております以上は一銭一厘でも間違いがあってはなりません
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御病気さへなければ、もう申すところは御座いませんのですけれど……御家おうちの方のことなぞは当分御忘れなさるがう御座います……奥様のは、あまり御気を遣はうと為さり過ぎる……
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
唯かぎりある御家おうちの内の御歓楽ばかり。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)