得體えたい)” の例文
新字:得体
かうした苦しみがいつまでも續いたら、自分は遲かれ速かれ得體えたいの知れない幽靈のために責め殺されてしまふかも知れない。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
およそ得體えたいのわからないものほど恐ろしいものはない。人が幽靈を恐れるのは、そのものの正體がわからないからである。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
が、わたくしこころうへには、せつないほどはつきりと、この光景くわうけいきつけられた。さうしてそこから、ある得體えたいれないほがらかこころもちがあがつてるのを意識いしきした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いつしか自分でも捕捉に苦しむ得體えたいの知れない暗いかげがきざし、その不安が次第に大きなものとなり、確信に滿ちてゐた心に動搖の生じ來つたことを自分自ら自覺しはじめ
(旧字旧仮名) / 島木健作(著)
も一つ上手うはて得體えたいの知れないものだ
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
結局、をぢさんの菩提寺の僧を頼んで、表向きは得體えたいの知れないお文の魂のために追善供養を營むと云ふことにした。お春は醫師の療治をうけて夜啼をやめた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)