後退あとずさり)” の例文
私は次の瞬間に思わずアッ! と声を挙げて二足三足後退あとずさりしたのである。死体だ! 畳はしたゝ血汐ちしおでドス黒くなっている。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「まあ眉間から血が出て。」と懐紙ふところがみにて押拭おしぬぐう、優しさと深切が骨身にみこむ、鉄はぶるぶる。「もう、可うございます。いえもう何ともありません。」と後退あとずさり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風は絶えず吹き込むで、硝子戸はまる痙攣けいれんでも起したやうに、ガタ/\、ガタ/\鳴る……學士の手先はをのゝき出した。やがて風早學士は、ぷいと解剖臺を離れて、たじ/\と後退あとずさりした。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それはあたかも車を峻坂しゅんぱんに押し進めるが如くである。二歩進みしかと思えば一歩退く。ヨブは十章の八節—十二節において愛の神の一端に触れしも、十三節以下また後退あとずさりするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)