後退あとず)” の例文
犬はタジタジとして少し後退あとずさったが、この猛獣が唸りすぎて、水洟みずばなを垂らしたので、甘く見たか、忽ち効果がなくなってしまう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に思い返したように後退あとずさって、「お母あ様にここへはいるお許しを願って下さいませんか」と小声で押問答していた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
呼吸いき切れをしながら、いくらか隠々したれいの悲しげな表情で、すこしずつ後退あとずさりながら、楽隊の下の重い粗末なカーテンの陰へかくれてゆくとき、わたしはそれが晩であるためか
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「——やったな」と智深は四つン這いになって上をめあげた。一段一段、大象だいぞうのようにゆっくり登ってくる。恐ろしさに役僧どもも職人もタジタジと後退あとずさりした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気の毒だが生命いのちはもらうぞ——だめだだめだ! 鞍馬くらまの竹童ジリジリ二すんや三寸ずつ後退あとずさりしても、八風斎の殺剣さつけんがのがすものか、立って逃げればうしろ袈裟げさへひとびせまいるぞ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっと、色を失って、墨江が後退あとずさると
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)