引繰ひっく)” の例文
うまくどさりと引繰ひっくり返す事ができるかの問題になると、あらかじめその辺の準備をしておかなかった彼は、全くの無能力者であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕がきっとここだというところまで解いて、それで駄目だったのは、あの『あらまそーお』云々を仮名文字のまま引繰ひっくりかえしたから失敗したのだ。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
解剖の結果かなり、多量の青酸が、死体の口中と胃の中から検出されましたが、それにしたところで、自殺説を引繰ひっくり返すほどの結果にはなりません。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「何じゃいし。」と振向くと、……亭主いつの間にか、神棚のもとに、しゃと構えて、帳面を引繰ひっくって、苦くにら
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「顔は黒うってますが、心は同じ日本人でさア」その言葉の終らないうちに、虎さんの直球が、黒ん坊の額にはずみ、彼が引繰ひっくり返ると、そのはずみに仕掛しかけが破れ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼は、天をうらむよりほか、なかった。車を下りてみると、森の向うは、まるで地獄のように、引繰ひっくりかえっていた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
不愉快ふゆかいそのもののような気持で、ベッドに引繰ひっくり返ったまま、眼を閉じていると、松山さんは、なおも、手近にあった通俗雑誌を手にとり、ぼくの横にわざと、ごろりと寝て
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼には夫人の持ってくる偏見と反感を、一場いちじょうの会見で、充分引繰ひっくかえして見せるという覚悟があった。少くともここでそれだけの事をしておかなければ、自分の未来が危なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして懸物かけものの前にひと蹲踞うずくまって、黙然と時を過すのをたのしみとした。今でも玩具箱おもちゃばこ引繰ひっくり返したように色彩の乱調な芝居を見るよりも、自分の気に入った画に対している方がはるかに心持が好い。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)