引掴ひきつか)” の例文
そして私にお前の言分をねつけさせてくれないか。私も頼む、その様子じゃもや引掴ひきつかんで突返すようで、断るに断り切れない。……こんな弱った事は無いのだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何事がお気に障ったか……と思う間もなく、厚くかさねた座布団の上から臂を伸ばした忠之は、与一の襟元を無手と引掴ひきつかんだ。力任せにズルズルと引寄せて膝の上に抱え上げた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
可恐おそろしく蛇ずきの悪戯いたずらで、秋寂あきさびた冷気に珍らしい湯のぬくもりを心地よげに出て来る蛇を、一度に押えてせっちょうして、遁げ込む石垣の尾を二疋も三疋も、引掴ひきつかみ、引掴ひッつか
その唇が、眉とともにゆがんだと思うと、はらりと薫って、胸にひやり、円髷まるまげ手巾ハンケチの落ちかかる、一重ひとえだけは隔てたが、お町の両の手が、咄嗟とっさに外套の袖をしごくばかりに引掴ひきつかんで、肩と袖で取縋とりすがった。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)