弓弦ゆみづる)” の例文
するとさっきからそのそばで、弓弦ゆみづるを張っていた当の文三、テレまいことか、頬をふくらませフッと横を向いたものである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
松林をずつと向うに越して弓弦ゆみづるを張つたやうになつてゐる沙浜すなはまに波の白く寄せてゐるあたりまでも行つた。大きな岩の一つ海中に立つてゐるあたりへも出かけた。
磯清水 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
毎朝まいちょう役所へ出勤する前、崖の中腹ちゅうふくに的を置いて古井戸の柳を脊にして、凉しい夏の朝風あさかぜ弓弦ゆみづるならすを例としたがもなく秋が来て、朝寒あささむある日、片肌脱かたはだぬぎの父は弓を手にしたまま
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
桃の枝をためた弓弦ゆみづるを留め、主人が顏を出した時繩を切つて矢を飛ばしたのだらう——その證據には、矢がヒヨロヒヨロで、主人の首をかすめて、二間先の唐紙のすそへ立つたほどだ。
有馬ありま有野ありの唐櫃からと神社に伝わっているネングイというものなどは、正月二日の鬼打神事おにうちしんじの一部で、はじめに的射まといの式があってそれの終った後、弓を地上においてその弓弦ゆみづるの前と後とに
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし、まさに矢を射放そうとしたとき、弓弦ゆみづるが音を立てて切断した。
弓弦ゆみづるを張られたように身をらして、柱の根元へ獅噛しがみついた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ズンズン弓弦ゆみづるを張って行く、サッサと鉄砲へ火薬をつめる。で、あっしは思ったんで。カワト姿に身をやつして、忍んで来た武士に相違ないとね。するとどうです案の定だ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)