かえ)” の例文
手紙でき合して見ようか、それでも事は足りるのだと思ったりした。彼が、宏壮な邸宅に圧迫されながら思わずきびすかえそうとした時だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「東西千里問安廻。傷別老懐鬱不開。遥憐山駅雨淫日。蓑笠穿雲独往来。」〔東西千里安ヲ問ヒテかえル/別レヲ傷ミテ老懐鬱トシテ開カズ/遥カニ憐レム山駅雨淫ノ日/蓑笠雲ヲ穿チテ独リ往来スルヲ〕の絶句がある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
樹の間を洩れて来るピアノの曲は、信一郎にも聞き覚えのあるショパンの夜曲ノクチュルンだった。彼は、かえそうとしたきびすを、釘付くぎづけにされて、しばらくはその哀艶あいえんな響に、心を奪われずにはいられなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)