庭燎にわび)” の例文
そして行く谷水を見ていると、かつての年、妹の登子とうこが足利家へとついだときの白い姿や、あの夜のさかんな庭燎にわびやらがふと目に浮ぶ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御神楽の夜の酒もりに、職事の公卿行綱が、袴を高くたくしあげ、細ズネを現して、庭燎にわびをグルグル廻りながら、足拍子に合せて。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、嫁方の庭燎にわびの火を、途上で、こちらの脂燭ししょくに移し取った騎馬の使者は、それを先に持ち帰って、初夜のとばりの燈台に点火しておく。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒いひのきの舞台に、五色のとばりが垂れていた。棟の四方に、めぐらしてある注連しめに、山風がそよとうごいて、庭燎にわびの火の粉がチラチラ燃えつきそうに時折かすめる。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤橋家の門から、反り橋、若宮ノ辻までの、たくさんな庭燎にわびが一せいに点火されたのだ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舞台まいゆかに坐って、笛を構え、ばちっている、古雅な近衛舎人このえとねりたちの風俗を写した山神楽師やまかぐらしの、怪しげな衣裳も、金襴きんらんのつづれも、庭燎にわびの光は、それを遠い神代の物に見せるのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近くの八坂やさかノ神の庭燎にわび祇園ぎおんの神鈴など、やはり元朝は何やら森厳しんげんに明ける。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤い庭燎にわびのゆらぐ闇へ、二人の影はまた、別れ別れに消えて行った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)