幾旒いくりゅう)” の例文
彼の旗さし物には、まだ何のしるしもなかった。無地の赤旗が、幾旒いくりゅうか兵馬のあいだに立って、犬千代の茫然ぼうぜんたる眼の前を流れて行った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広重は顔見世乗込かおみせのりこみの雑沓、茶屋飾付かざりつけの壮観をよそにして、待乳山の老樹鬱々うつうつたる間より唯幾旒いくりゅうとなきのぼりの貧しき鱗葺こけらぶきの屋根の上にひるがえるさまを以て足れりとなし、また芝居木戸前しばいきどまえの光景を示すには
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さらに、二つの江の口を過ぎると、やがて金沙灘きんさたんの岸には、幾旒いくりゅうもの旗と人列が見えた。頭領の王倫おうりん以下、寨中さいちゅうの群星が、かんを出て、立ち迎えていたものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ一色の源氏の白旗につづいて、千葉家の月輪つきのわの紋じるしも幾旒いくりゅうひるがえっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)