年比としごろ)” の例文
「先生が僕を見棄てないなら、僕の家に十五になる男の児があります、先生の方にどなたかありますなら、迎えたいと思いますが、先生の方に年比としごろの方がないでしょうか」
胡氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかれドモ三成討死シ給フト申スモノ一人モ無シ、其実否ヲ聞届ケ給フマデハ御待候ベシ、年比としごろ父三成ノ御恩深ク蒙シひじり高野山ニ候間暫御忍ビアレ、それがし御トモ可申ト頼シゲニ言ヒテンケレバ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
されど年比としごろ売尽し、かり尽しぬる後の事とて、この店を閉ぢぬるのち、何方いずかたより一銭の入金のあるまじきをおもへば、ここに思慮をめぐらさざるべからず。さらばとて運動の方法をさだむ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
くだんの僧の伯母をばにてはべりける女は、心すきすきしくて好色はなはだしかりけり、年比としごろのをとこにも少しも打ちとけたるかたちをみせず、事におきて、色ふかく情ありければ、心うごかす人多かりけり
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やはらかき衣類にてもかさねまほしきが願ひなり、さればわがもとのこゝろはしるやしらずや、両人ともにすゝむる事せつ也、されども年比としごろうり尽し、かり尽しぬる後の事とて、此みせとぢぬるのち
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
年比としごろの心労も手伝てドット床にく。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お作は女の手一つで夫の形見を育てていたが、何時の間にかその小供も年比としごろむすめとなった。
妖怪記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女の家では女が年比としごろになったのを見て、生きているやら死んでいるやら判らない男を待たしておくわけにもゆかないので、劉祥りゅうしょうという者の家へ嫁いらそうとしたが、女が承知しない。
再生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女はもう年比としごろになっていた。魚の胎児のような赤い斑点はますます拡がりを持ち、縮れた頭髪は赤茶けて見えた。女も醜い顔を怨み歎いて、人に見られないようにと、何時も、奥深い室に籠っていた。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)