干鰯ほしか)” の例文
むろの津の港に、五六人のごまの蠅が、干鰯ほしかのように砂地で転がっていた。そして、品のよい老女が通るのを見つけて、かけをした。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
干鰯ほしか仕切しきりに楷書を見たることなし、世間日用の文書は、悪筆にても骨なしにても、草書ばかりを用うるをいかんせん。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
又「これは俗に云う干鰯ほしかのようなもので、田舎へ積んで往って金儲けを仕ようと思うのだ、実はこいになるものよ」
聴水黒衣の二匹の獣は、彼の塩鮭しおざけ干鰯ほしかなんどを、すべて一包みにして、金眸が洞へ扛きもて往き。やがてこれを調理して、数多あまた獣類けものを呼びつどひ、酒宴を初めけるほどに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
磯に続く此方は、一面の田圃たんぼになっていて、穂に出た早稲がそよいでいる。磯には鰯が干してある。烈しい秋の日が照りつけて、むっとするような干鰯ほしかの匂もあたりにみなぎっているに相違ない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「イヤ、悪かった。猫に干鰯ほしかでツイ卑しい根性出いたのが悪かった」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
犬一疋、一日の供食には、白米三合、味噌五十目、干鰯ほしか一升ずつ——日によって物はちがうがこの程度である。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何処いずくの津より運び来にけん、俵にしたる米のほかに、塩鮭しおざけ干鰯ほしかなんど数多あまた積めるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さればとよよくききね、われ元より御身たちと、今宵此処にて邂逅めぐりあはんとは、夢にだも知らざりしが。今日しも主家のこものかれて、このあたりなる市場へ、塩鮭干鰯ほしか米なんどを、車につみて運び来りしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)