まち)” の例文
おめえは、夜ひる眠ることもできずに、その男のまぼろしを抱いて、野良犬のように、江戸のまちをほっつきまわっていたのだろう。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じまちに王と同姓の給諌きゅうかんの職にいる者がいた。王侍御の家とは家の数で十三、四軒隔っていたが、はじめから仲がわるかった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「いま、つれていってやる——だまって、ついてこい。」と、おじいさんは、さきになってあるきました。そして、いろいろのまちとおって、あるいえまえにきました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
お庄はごちゃごちゃした日暮れのまちで、末の弟を見ていた。弟はもう大分口が利けるようになっていた。うっちゃらかされつけているので、家のなかでも、朝から晩までころころひとりで遊んでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『幸福』よ、まち出逢であつた見知らぬ人よ
幸福が遅く来たなら (新字旧仮名) / 生田春月(著)
しきりに頭を掻いている宗七のようすは、装っているのでもなんでもない、こころの底からのまちの遊芸人である。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正月いっぱいはなんと言っても遊戯心地あそびごこち、休み半分、年季小僧も飯炊きも、そう早くから叩き起されもしないから、夜が明けたと言っても東の色だけで、江戸のまちまちには
何よりも、その甘美な空気を吸って、思い切ってまちを出て来た目的を存分に果たしたかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あたりを打つ雨音の底に、夜のふけるひびきが陰深と鼓膜を衝いて、安兵衛も、黒装束の人数も引き返してくる気勢けはいはない。雨に眠るまちの、真っ暗なたたずまいである。守人は小手をかざした。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、不審に感じながらも、喬之助は音松に、遠くから慇懃いんぎんに挨拶して、魚心堂先生とお絃と三人づれそのまま朝のまちを神田帯屋小路へ帰ってみると……右近はもう帰って来ている、平気な顔だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ほがらかな男の笑いが、深夜のまちにひびいた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)