たか)” の例文
それがあまりに息詰まるほどたかまると彼女はそのかさを心から離して感情の技巧の手先で犬のように綾なしながら、うつらうつら若さをおもう。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
舟の落下につれて、洞内の温度が急激にたかまっていく。一時間の終りごろになると、誰も彼も汗みずくになって、犬のように舌を出してハアハアと喘ぎはじめた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けさの記憶のまだ生々なまなましい部屋へやの中を見るにつけても、激しくたかぶって来る情熱が妙にこじれて、いても立ってもいられないもどかしさが苦しく胸にせまるのだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お師匠さんの仰言おっしゃる通り、じっとこらえて、いざと言う場合まで、自分の力を養って行く他はないのだ。気をたかぶらせてはならぬ。女の子のように、めそめそしてはならぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すべての感覚が解放され、物の微細な色、におい、音、味、意味までが、すっかり確実に知覚された。あたりの空気には、死屍ししのような臭気が充満して、気圧が刻々にたかまって行った。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
私の顔色は青く、脈搏はたかまったであろう。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
女道楽をはじめとして私行的の道楽なら、いくら金を使っても池上の身上しんしょうとしてはたかが知れたものである。たゞ事業の道楽をやられては怖い。父の理兵衛がよい手本である。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なんだ西洋とてそんなものかとたかくくらせはしたが当時モダンの名に於て新味と時代適応性を
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
病床にふせがちな次姉はこの噂に神経をたかぶらせて衰弱して死んだ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)