尾錠びじょう)” の例文
それは、あの悪鬼の神謀——つまり、水が氷に変る際の、容積の膨脹を利用して、鍵金の尾錠びじょうを下から押し上げたからである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
十五の時に、はかまをひもでめる代わりに尾錠びじょうで締めるくふうをして、一時女学生界の流行を風靡ふうびしたのも彼女である。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は自分の声で眼が醒め、一分間ほど怪訝な思いでソーボリの広い背中を、チョッキの尾錠びじょうを、肥ったきびすを眺め、それからまた横になってうとうとする。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
給料を一文もつかわないばかりか、営庭の掃除の時に見付けた尾錠びじょうボタンを拾い溜めては、そんなものをなくして困っている同僚に一個一銭ずつで売りつけて貯金をする。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしその部屋は、昨夜ゆうべと同じようにかたく尾錠びじょうが下されている。それも、鍵を鍵穴に入れ放したとみえて、合鍵では、尾錠が揺ごうともしない。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
古代紫の紬地つむぎじの着物に、カシミヤのはかますそみじかにはいて、その袴は以前葉子が発明した例の尾錠びじょうどめになっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)