小縁こべり)” の例文
いいかけた終りの一言は、胸に抑えて、すぐ懸命に身づくろいを直し、舟の小縁こべりすがりながら、這うように岸へ自分で上がって来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞えよがしに大きく叫んで、ひょいと欄干を飛越すと、いきなり、もんどりうって、船の小縁こべりにぶら下った。命の瀬戸際せとぎわ軽業かるわざだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし海岸は遠浅で、岩角が沢山有りますから思うように舟が出ませぬ。是幸いに文治は突然いきなり海へ飛込み、カノーの小縁こべりに取付きました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兼吉は罵るように云いながら、火鉢の小縁こべり煙管きせるをぽんぽんと叩くと、文字春の顔の色は灰のようになった。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時、舟と舟の小縁こべりがくっつくようになって、彭と友人とは手を握れそうになった。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
になわなくては持てないほど獲れたりなんぞする上に、これを釣る時には舟のともの方へ出まして、そうして大きな長い板子いたごかじなんぞを舟の小縁こべりから小縁へ渡して、それに腰を掛けて
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しもから登って来ていた二三そうの舟も直ぐそれを見つけた。顛覆した舟の傍には二三人の人夫の頭が浮いた。平兵衛の舟へはその二つの頭が近づいて来て舳の小縁こべりへその手がかかった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と弦之丞が、ふと天蓋てんがい小縁こべりをあげて、その侍の顔をのぞいた刹那である。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誠におだやかな海上でありましたが、ふけるに従って浪はます/\はげしく、ざぶり/\と舟の中に汐水が入りますのみか、最早小縁こべりれ/\になりまして、今にもくつがえりそうな有様でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)