夭死わかじに)” の例文
夭死わかじにした細君の兄の話から、学問に凝ったと言われた人達のことが皆の間に引出されて行った。田辺の親戚で、田舎に埋れている年とった漢学者の噂も出た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一人の女の子を残して急病で夭死わかじにし、彼女の身辺に何か寂しい影が差し、生きる気持が崩折くずおれがちであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
内海さんが、あゝ仰有おつしやるんだから、思ひ切つて保養にでも行つて來ちやどうだい。兄さんのやうに夭死わかじにをしちや大變だから、家の事は心配しなくつてもいゝから、繪を
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ひとは夭死わかじにというかも知れないが、以て半兵衛重治は充分にめいすことができるというものである
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家を治めて居りました処が、夭死わかじにを致しましたけれども、田舎は堅いから娘を嫁付かしづけますと盆暮にはきっと参りますが、此方こちらでは女房が死んでからは少しも音信おとづれをしない、けれども
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
果報者の本多忠刻を、三十一歳で夭死わかじにをさせた後の爛熟らんじゅくしきった若い未亡人の乱行。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふと眼をひらくと、肌の温みに氷河の衣がいつかけている、また一瞬間、葛城、金剛、生駒、信貴山などいう大和河内あたりの同胞はらからが、人間に早く知られる、汚される、夭死わかじにをしてしまう
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
惜しいことには夭死わかじにした。今居ったなら一廉ひとかどの人物となっておるに相違ないと思う。何でも議論風発と云う勢で、そうして東京育ちの弁を振うもの故、予の如き田舎漢いなかものはいつも遣りこめられた。
鹿山庵居 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
三十歳、四十歳を多く出ぬまに、夭死わかじにする者が多かった。——これをまた、物怪もののけの祟りとし、菅原道真の怨霊がなすところであるという説を、かれらは本気で信じたのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
継友を刺殺せしめたとの説がある——継友が夭死わかじにして、宗春の時になると、吉宗の勤倹政治に反抗するために、あらゆる華奢惰弱の風を奨励した時から、いよいよ精分が抜けてしまった。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この美人に思われて夭死わかじにをしたのは、お輿入こしいれ間もないことで、その死因は単純な果報負けだともいうし、坂崎余党のうらみの毒によるものだともいうし……また、昼夜にもてあそばるる天樹院の
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
存外夭死わかじにだが、実家の男谷というのはどんな家柄だ、四十一石の身上へ養子に来るくらいだから大した家柄ではあるまい、とやっぱり軽蔑を鼻の先に浮べて、神尾が男谷の系図書の方を読んでみて
「本多はそれがために三十一で夭死わかじにをしてしまった」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)