夢魔むま)” の例文
豁然かつぜんと、心がひらけ、夢魔むまからめるのもつねであった。十方の碧空あおぞらにたいして、恥じない自分をも同時にとりもどしていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともし低く、しらみわたる部屋にこんこんと再び眠りに沈んだ大膳亮——畢竟ひっきょうこれはうつし世の夢魔むま、生きながらに化した剣魅物愛けんみぶつあいの鬼であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と叫んで、時平はあたかも美しい夢魔むまから解き放たれたように、つと御簾の傍へ走り寄ると、大納言の手を振り払って、自分がその袂をしっかりとつかんだ。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
次に私の覺えてゐるのは、恐ろしい夢魔むまに襲はれたやうな感じで目が覺めて、目の前に凄まじい紅い炎が、太い黒い棒と交叉かうさしてゐるのを見たことだつた。
福田氏惨殺の現場に居合わせた二郎青年や、夢魔むまの様な予感に震えていた妙子の恐怖はさることながら、父玉村氏が、かくも賊の兇手を恐れるのはどうした訳か。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
即ち僕の願とは夢魔むまを振い落したいことです!
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし別離の夢魔むまから呼び起され——ちぎりの樂園に呼び込まれ——私は、たゞ飮めとなみ/\注がれた祝福のみに、心を奪はれてゐた。繰り返し/\彼は「うれしい、ジエィン?」と云つた。