声音こえ)” の例文
旧字:聲音
西の浦に出た時に小路から担いきれぬほどあしをかついだ、衣もほころび裸同様の乞食男こじきおとこ一人出て、くれかけた町々に低い声音こえで呼びかけた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「ハハハハハハ、お前はとうとう本音を吐いたね」廣介の声音こえは、いやに落ちついていましたが、どこか自暴自棄の調子を隠すことは出来ませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吉田とも竜太郎ともたずねてみなかったのは、もう一ぺん、声音こえを聞いてみたかったからです。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このはずみに貝は突然、うああ、……という体躯からだの全部からしぼり出された声音こえを、続けざまに草の間にうつ伏せになって発した。
お怒りにならないようならお話いたしとうございますと低い声音こえで、月のような顔をもたげる時、もう、生絹のいうことが何であるかが大抵わかっていた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
くりやの夕暮、塗籠ぬりごめの二階、の子のたたずまい、庭の中というように、至るところに筒井は夫の呼吸を感じ、そのたびに少しきびしい声音こえになって筒井は胸の中でいった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
先の車の声は笑いふくんで呼ばわり、あとの女車の声もおなじ笑いをもらした声音こえだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その折、低い声音こえを忍んで二声ばかり聞え、その声は実に遠い記憶にこたえのある声だった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
二人の声音こえはすこしの狂いがなく、むしろ、お互に念をおし合うように冷酷にうち交された。しかも、かれらは顔をむき合わせることがなく、雨の中にその言葉をたたきつけているようなものだった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
野伏ノ勝が絞るような声音こえでいった。「戻って来なされい。」
橘はどこか怒りをまじえた声音こえになっていった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)