垂布たれぎぬ)” の例文
寝台の三方は板壁で、一方だけが開いていて、そこには垂布たれぎぬがかけてあるのだ。すなわち一つの独立した、小さい部屋を形成しているのさ。
鴉片を喫む美少年 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左には広きひらあり。右にも同じ戸ありて寝間ねまに通じ、このぶんは緑の天鵞絨びろうど垂布たれぎぬにて覆いあり。窓にそいて左のかたに為事机あり。その手前に肱突ひじつき椅子いすあり。
丁度私達の恋が悲しい形を取った時、二人の上には死の垂布たれぎぬがふんわりと蔽いました。その時私達はその死を見つめないで、その垂布に包まれて泣いている愛をばかり見つめたのです。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
広さ六畳の洋風書斎、壁にめ込まれた巨大おおきな書棚。それへ掛けられた深紅の垂布たれぎぬ、他に巨大な二個の書棚、なおこの他に廻転書架、窓に向かって大ぶりのデスク。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(右手扉の方へかんとする時、死あらわれ、しずか垂布たれぎぬうしろにはねて戸口に立ちおる。ヴァイオリンは腰に下げ、弓を手に持ちいる。驚きてたじたじとさがる主人を、死はしずかに見やりいる。)