嗔恚しんい)” の例文
しかしそのうつくしいつまは、現在げんざいしばられたおれをまへに、なん盜人ぬすびと返事へんじをしたか? おれは中有ちううまよつてゐても、つま返事へんじおもごとに、嗔恚しんいえなかつたためしはない。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人間はそこに罪深くも思想として迷妄世界を建立する。嗔恚しんいと悔恨とが苛責かしゃくきばを噛む。
しかしその美しい妻は、現在縛られたおれを前に、何と盗人に返事をしたか? おれは中有ちゅううに迷っていても、妻の返事を思い出すごとに、嗔恚しんいに燃えなかったためしはない。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まいも洛中に並びないが、腹を立てるのは一段と巧者じゃ。あの男は謀叛むほんなぞに加わったのも、嗔恚しんいかれたのに相違ない。その嗔恚のみなもとはと云えば、やはり増長慢ぞうじょうまんのなせるわざじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)