しゃ)” の例文
しゃがれ声であっても、美くしい声をもっている人を讃め、なおなおたくさんそういう人の出てくれることを願うべきではありますまいか。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私はしゃがれた声を張りあげて「ゆうかーん、ゆうかーん」と叫んだ。だけどもうその頃になっては誰も夕刊を必要としないといった風に行き過ぎた。
と云い棄てて階段をあがろうとすると、またもや同じ声が聞こえる。耳を澄ますと、それはしゃがれた、うめく様な声で確かに書記のる室から来るらしい。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
すると助役は、首をかしげて、一寸記憶を呼び起す様にしていたが、急にハッとなると、見る見る顔を引き歪めながら、低い、しゃがれた声で、呻く様に
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
と云う、しゃがれたうちたんの交じった、冷飯に砂利をむ、心持の悪い声で、のっけに先ず一つくらわせた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゃがれた娘の声は、聞くに忍びないようでした。セエラは甘パンをあと三つ娘にやりました。
ふすまの破けたとなりのへやでは、亡母の位牌いはいに灯明をあげたらしく、黄色い光がれて、やがてチーンと鐘が二つばかり鳴ると、父親の「お題目」を唱えるしゃがれた声がきこえてきた。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「先生」と、咳がとまってから、夫人は幾分かしゃがれ声になって言いました。
印象 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
こんどは何か私に突っかかるようなしゃがれごえだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)