喉音こうおん)” の例文
そのrの喉音こうおんや語尾の自然な音韻が紛れもないドイツの生粋きっすいの気分を旅客の耳に吹き込むものであった。パンとゆで玉子を買って食う。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてあたかも自分ひとりであるかのように、切れぎれの流行歌やばかな反唱句などを口ずさんだが、しわがれた喉音こうおんのためにそれも悲しげに響いた。
「むっ」と喉音こうおん潜めた気合。掛けると同時に一躍した。ピカリ剣光、狙いは胸、身をひらめかして片手突き!
二人町奴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女主人の制止に、仕方がないとあきらめたように、犬はウウッーと喉音こうおんを立てながら、後退あとずさりして行きました。が、驚破すわといえばまだ躍りかからんばかりの、すさまじい形相です。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
洞声うろごえの発音——鈍い、よくりあいのとれた、完全に調節された喉音こうおん——に変ったりした。
どろんと濁った眸子ひとみ、緊りのなくなった、よだれで濡れて半ば開いている唇、そして時おり歯の間からもれる無意味な、唖者あしゃに特有の喉音こうおんなど、すべてが医者の言葉を裏付けているようにみえた。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかしたとえば喉音こうおんのあるものは半数だけkかg、残り半数をhで代用するというような試験的便法を取って第一歩を進める事もできる。
返辞こそしないが室の中には沢山の人達がいると見えて、賑やかな声が聞こえていた。しかも賑やかなその声は、何かに酔ってでもいるように、濁った、だらしのない喉音こうおんである。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(Ar.)gharib, ghurabā「異常」は喉音こうおんのgをとると「わらふ」にも似てるし、hをbに変えると「べらぼう」のほうに近づく。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)