善男子ぜんなんし)” の例文
僕 僕はむし善男子ぜんなんしだ。し悪人だつたとすれば、僕のやうに苦しみはしない。のみならず必ず恋愛を利用し、女から金を絞るだらう。
闇中問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
泥海ぬかるみに落つる星の影は、影ながらかわらよりもあざやかに、見るものの胸にきらめく。閃く影におど善男子ぜんなんし善女子ぜんにょしは家をむなしゅうしてイルミネーションに集まる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうかと思うと、子供づれで、参詣の善男子ぜんなんしに化けこんでいるのもある。人数にしておよそ三十人ばかり、参詣の人波にまぎれながら、四方からヒシヒシとお堂をとりつめている。
津々浦々つつうらうら渡鳥わたりどり稲負いなおおどり閑古鳥かんこどり。姿は知らず名をめた、一切の善男子ぜんなんし善女人ぜんにょにん木賃きちん夜寒よさむの枕にも、雨の夜の苫船とまぶねからも、夢はこのところに宿るであろう。巡礼たちが霊魂たましいは時々此処ここに来てあすぼう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)