唯一ただひと)” の例文
ただ見る、それさえ不意な上、胴体は唯一ただひとツでない。たてがみに鬣がつながって、胴に胴が重なって、およそ五、六けんがあいだけものの背である。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でもかう云ふたら何やたいそうむづかしいお願ひするやうに聞えますけど、決して/\そんな面倒なことではありません。私あなたの家庭から唯一ただひとつだけ頂きたいものがあるのです。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あはれかかるよ、歌よむ友のたれかれつどひて、静かに浮世うきよほかの物がたりなど言ひ交はしつるはと、にはかにそのわたり恋しう涙ぐまるゝに、友に別れし雁唯一ただひとつ、空に声して何処いづこにかゆく。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おなじ仕組の同じ獅子の、唯一ただひとつには留まらで、主立おもだつたる町々より一つづつ、すべて十五、六頭だし候が、群集ぐんじゅのなかを処々横断し、点綴てんてつして、白き地に牡丹の花、人をおおひて見え候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)