咯血かっけつ)” の例文
明治二十九年の夏に子規居士が従軍中咯血かっけつをして神戸、須磨と転々療養をした揚句あげく松山に帰省したのはその年の秋であった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
緒方氏がまだ十歳くらいの頃、大阪の家の広い庭で遊んでいられた時に、父上がかわやから出られたと思うと、手洗の所でひどく咯血かっけつせられました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
十二月三日、土曜日の夜の舞台で、ファウストの宝石の歌をうたいながら、根来八千代は突然に咯血かっけつして倒れた。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
呪うべき浮世を去ったのである、さすがの夫もまさかこの夜はそばに居たかと思いの外、この夕方女は咯血かっけつをして、非常に衰えていたのを見知っていながら
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
明治二十二年の五月に始めて咯血かっけつした。その後は脳が悪くなつて試験がいよいよいやになつた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それに、年がまだ二十六歳だったので、初々ういういしくさえあり、池田屋斬込みの際、咯血かっけつしいしい、時には昏倒こんとうしながら、十数人を斬ったという、精悍せいかんなところなどは見られなかった。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一の難関を突破して一週間ほど過ぎたある夜、私は突然咯血かっけつをしたのです。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
平生の志の百分の一も仕遂しとげる事が出来ずに空しくだんうらのほとりに水葬せられて平家蟹へいけがに餌食えじきとなるのだと思うと如何にも残念でたまらぬ。この夜から咯血かっけつの度は一層はげしくなった。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
居士の肺を病んだのは余の面会する二、三年前の事であったので、余の逢った頃はもう一度咯血かっけつしたちであった。けれどもなお相当に蛮気があった。この時もたしかを漕いだかと思う。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
三十三年一月に兄から母へ寄せた手紙の一節に、「小金井氏財政の事ども承知いたし候」とあり、「当郡病院長澄川といふもの参り話に小金井は咯血かっけつしたり云々うんぬんと東京より申来もうしきたりとの事に候。 ...
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)