印袢天しるしばんてん)” の例文
その片隅かたすみ印袢天しるしばんてん出入でいりのものらしいのが、したいて、さい輪飾わかざりをいくつもこしらへてゐた。そば讓葉ゆづりは裏白うらじろ半紙はんしはさみいてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
別に画にみるようなトゲトゲはないが短かい角はある。髪はザン切りにしていた。それがひどくよごれた印袢天しるしばんてん風のものを着て、汚れたひもを帯の代りに締めている。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
其処には古い印袢天しるしばんてんに、季節外れの麦藁帽むぎわらぼうをかぶった、背の高い土工が佇んでいる。——そう云う姿が目にはいった時、良平は年下の二人と一しょに、もう五六間逃げ出していた。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
海産物会社の印袢天しるしばんてんを着たり、犬の皮か何かを裏につけた外套がいとうを深々と羽織ったりした男たちが、右往左往に走りまわるそのあたりを目がけて、君の兄上が手慣れたさばきでさっと艫綱ともづなを投げると
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その片隅かたすみ印袢天しるしばんてんを着た出入でいりのものらしいのが、下を向いて、さい輪飾わかざりをいくつもこしらえていた。そば譲葉ゆずりは裏白うらじろと半紙とはさみが置いてあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真中に印袢天しるしばんてんを着た男が、立つとも坐るとも片づかずに、のらくらしている。今までも泥の中へ何度も倒れたと見えて、たださえ色の変った袢天はんてんがびたびたにれて寒く光っている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)