南天燭なんてん)” の例文
南天燭なんてんあかい実を目に入れた円い白雪は、お定りその南天燭の葉を耳に立てると、仔細しさいなくうさぎである。雪の日の愛々しい戯れには限らない。
片側は人の歩むだけの小径こみちを残して、農家の生垣が柾木まさきまき、また木槿むくげ南天燭なんてんの茂りをつらねている。夏冬ともに人の声よりも小鳥のさえずる声が耳立つかと思われる。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
知らぬ顔して、何にも言わないで、南天燭なんてんの葉に日の当る、小庭に、雀はちょん、ちょんと遊んでいる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なお驚いたのは、前刻さっきの爺さんが同じ処で、まだじっ南天燭なんてんの枝ぶりを見ていた事です。——一度宿へ帰って出直そうとそこまで引返したのですが、考えました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つのぶちの目金めがねで、じっと——別に見るものはなし、人通ひとどおりもほとんどないのですから、すぐ分った、鉢前のおおきく茂った南天燭なんてんの花を——(実はさぞ目覚めざましかろう)——悠然として見ていた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ひよどり南天燭なんてんの実、山雀やまがら胡桃くるみですか、いっそ鶯が梅のつぼみをこぼしたのなら知らない事——草稿持込で食っている人間が煮豆を転がす様子では、色恋の沙汰ではありません。——それだのに……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)