卒堵婆そとば)” の例文
わたくしの参詣した時には、おこうさんと大槻文彦さんとの名をした新しい卒堵婆そとばが立ててあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
墓の前には新しい卒堵婆そとばが立っていた。樒の花筒がすこし傾いているのは昨夜の風の為であるらしく、何者にか掻き散らされた形跡も見えなかった。銀蔵は怪訝けげんな顔をして眼を見はった。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨露うろに朽ちて、卒堵婆そとばは絶えてあらざれど、傾きたるまま苔蒸こけむすままに、共有地の墓いまなお残りて、松の蔭の処々に数多く、春夏冬は人もこそわね、盂蘭盆うらぼんにはさすがにもうで来る縁者もあるを
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半七は何物かをたずねるように石塔のあいだを根気よく縫い歩いていると、墓場の奥の方に紫苑しおんが五、六本ひょろひょろ高く伸びていて、そのそばに新らしい卒堵婆そとばが立っているのを見つけた。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時、墓を出た骸骨がいこつを装って、出歯でっぱをむきながら、卒堵婆そとばを杖について、ひょろひょろ、ひょろひょろと行列のあとの暗がりを縫って歩行あるいて、女小児こどもおびえさせて、それが一等賞になったから。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたわらへ坐らせて、お君が、ちゃんと膝をついた拍子ひょうしに、何と思ったか、ずいと立ってそこらを見廻したが、横手よこってのその窓にならんだ二段にったたながあって、火鉢ひばち燭台しょくだいの類、新しい卒堵婆そとばが二本ばかり。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)