十分じっぷん)” の例文
のみならずからかいでもしなければ、活気にちた五体と頭脳を、いかに使用してしかるべきか十分じっぷんの休暇中てあまして困っている連中である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一しきり、またこがらしの戸にさわりて、ミリヤアドの顔あおざめぬ。その眉ひそみ、唇ふるいて、苦痛を忍びまぶたを閉じしが、十分じっぷん過ぎつと思うに、ふとまた明らかにみひらけり。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この自然とあの人間と——十分じっぷんの後、下女の杉が昼飯の支度の出来たことを知らせに来た時まで、彼はまるで夢でも見ているように、ぼんやり縁側の柱にりつづけていた。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あのしまきがこの海岸に達すると、もう本物の南東風くだりだ、もう、それも十分じっぷんがない、——白山、南東風くだり、難破船、溺死できし——、こういうかんがえがごっちゃになって為吉の頭の中を往来しました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
けっして損になる気遣きづかいはございません。十分じっぷん坐れば、十分の功があり、二十分坐れば二十分の徳があるのは無論です。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十分じっぷんのち、保吉は停車場のプラットフォオムに落着かない歩みをつづけていた。彼の頭は今しがた見た、気味の悪い光景に一ぱいだった。殊に血から立ち昇っている水蒸気ははっきり目についていた。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
落雲館に群がる敵軍は近日に至って一種のダムダム弾を発明して、十分じっぷんの休暇、もしくは放課後に至ってさかんに北側の空地あきちに向って砲火を浴びせかける。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)