くわう)” の例文
春濤は失意にくわうるにおこりわずらい、毅堂の帰府を待ち得ず悄然しょうぜんとして西帰の途に上った。これらの事は皆『春濤先生逸事談』に記述せられている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八重多年教坊きょうぼうにあり都下の酒楼旗亭にして知らざるものなし。くわうるに骨董こっとうの鑑識浅しとせず。わが晩餐の膳をして常に詩趣俳味に富ましめたる敢て喋々ちょうちょうの弁を要せず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
要するにこのたびの房総行は初より興がなかったものと思われる。これにくわうるに枕山は或日道に酔うて折角懐中にした売文の銭を落してしまった。『詩鈔』に「遺金歎」五言古詩が載っている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
イマダレズ。従者皆襏襫はっせき穿うがツ。山重リ嶺かさなリ、道路峗嶇きくタリ、くわうルニ連日ノ雨ヲ以テス。泥濘滑澾でいねいかったつ、衆足ヲ失センコトヲ恐レ次ヲ乱シ地ヲえらビテ行ク。ナホ往往ニシテ顛倒てんとうス。渾身こんしん塗ヲ負フ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)