割烹着かっぽうぎ)” の例文
いずれ僕もあと三十年もしたら浴衣ゆかたがけで芸談一席と洒落しゃれる気になるかも知れないが、今のところはこの不細工な割烹着かっぽうぎを脱ぐつもりはない。
翻訳のむずかしさ (新字新仮名) / 神西清(著)
あたしは、テンピの中と調理台の上を手早く掃除すると、少年に白い割烹着かっぽうぎを着せ、ハンカチでコックさんの帽子をつくってかぶせてやりました。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
白い割烹着かっぽうぎで座敷天ぷらの長箸ながばしを使いながらハゲ天氏がしみじみと「義仲って者も、なんて可哀そうなんでしょうなア」
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
モヂリ・鯉口こいぐちうわり、或いはこの頃はやる割烹着かっぽうぎの類まで、この作業の頻々ひんぴんたる変更に、適用せしめようとした発明は数多いが、もともと働かないための着物を
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
和服の上に割烹着かっぽうぎをひっかけた朝倉夫人が廊下の窓から顔をのぞかせ、不審ふしんそうにそう言ったが
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
古川ロッパに似た体格のいい若主人がいた。いつも店に顔を出していて、割烹着かっぽうぎ姿で肉切り庖丁を握っていたり、また惣菜そうざい用のカツレツやコロッケを揚げていたりしていた。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
スカートと柔かいジャケツの上から割烹着かっぽうぎをつけ、そこに膝ついているひろ子の体や、あっち向で何かしているタミノの無頓着な後つきをじろり、じろり眺めて、ねばって行った。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
突然、「降ってくるよ。」と叫びながら、白い上ッ張を着た男が向側のおでん屋らしい暖簾のれんのかげにけ込むのを見た。つづいて割烹着かっぽうぎの女や通りがかりの人がばたばた馳け出す。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帰って来て清三が門を潜るとかならず康子の白い割烹着かっぽうぎ姿が玄関の式台に現れた。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お徳の白い割烹着かっぽうぎも、見慣れるうちにそうおかしくなくなった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)